小豆と和菓子が主役のライフスタイルマガジン

和菓子と海外、和菓子と時代の関わり最前線

和菓子と海外、和菓子と時代の関わり最前線

フランス、リヨンの食の展示会で、どら焼き披露くださっていた和菓子職人さんが、ひっぱりだこでした。
うちの店でやってくれないかとか、お店はフランスのどこにあるのか、お店を一緒につくりませんか、といった具合にです。

こんなに、ヨーロッパで引っ張りだこの和菓子職人さん。
でも、よく 考えてみると、和菓子づくりは、日本国内でしか学べません。
きっと、ヨーロッパから和菓子職人になりたい人が、日本に学びに来ておられるのではないかと考えました。

和菓子職人さんになりたい人達は、どんな人たちが集まっているのだろうか、どういう未来を描いているんだろうか、そんなことをお聞きしたくて東京製菓学校さんに取材にいってまいりました。

高田馬場駅方面から戸山方面に歩くと、目に入る東京製菓学校

日本国内での和菓子と洋菓子の境界

 

Q、 東京製菓学校では入学する時点で、和菓子か洋菓子か、専門を選ばれるのですね。

A、 はいそうです。
和菓子、洋菓子、製パンのそれぞれの技術をみっちり2年間お伝えし、より深い専門知識と技術を身に着けていただくカリキュラムになっています。

 

Q、 ということは、入学される段階で既に、将来、自分は和菓子職人になる、もしくは洋菓子職人になる,と決めてこられるわけですね。

A、 そういうことになります。

とはいうものの、和菓子、洋菓子という違いは、実はこれこそ日本独特のもののようで、例えばこんなエピソードがありました。

海外からの留学生で、自分は日本の菓子を学びたいんだと入学を希望された方がおられました。私たちは、てっきり和菓子課に入学をご希望だろうとおもったんです。 ですがよくお聞きしてみると、その方が作りたかったのはイチゴショートケーキだったんですね。
ということで、洋菓子課に入学されました。

私たちが見るとイチゴのショートケーキは洋菓子になるんですけれども、海外から見ると、日本が生み出した、日本の菓子なんですね。

こんな風に、和菓子、洋菓子といって分けても、だんだん垣根がなくなってきているような現状があります。

東京は人が集まるところなので、どら焼き専門店、もなか専門店と、和菓子のなかでもさらに、ある特定の商品に特化した専門の和菓子屋さんが存在します。

でも今、日本全国でみてみると、東京は特異です。
全国的にみると、洋菓子店でさえ減っています。
郊外や地方では、一つの店の中で和菓子も洋菓子も売られているところが一般的です。

なので 実際には、和菓子職人だから和菓子しか作らない、洋菓子職人だから洋菓子しか作らない、といったことではすでに日本の菓子業界は成り立たず、 また菓子そのものも、洋菓子とも和菓子ともいえるハイブリッドなものがだんだん一般的になっているのが現状です。

それで、和菓子屋さんだけれどもフランスの洋菓子を学びに留学されたり、 和菓子と洋菓子の両方を専門的に学んでから菓子店を開業される方も、最近ではおられるわけです。

 

海外での日本菓子の定義もうつりかわってきた

 

東京製菓学校では、文化庁や外務省から依頼を受け、海外で日本文化を伝えるために、和菓子のイベントを開催しにゆくことが年に数回あります。もう20年ほど前から行なっている事です。

同行させてもらって感じるのが、6~7年前ぐらいを境目に、20年前と、今の、ヨーロッパの人の和の食材をつかった食べ物への関心や反応が、手のひらを返したようにすごく大きく変わってきていて、和菓子の好感度が劇的にあがったということです。

例えば、20年前ぐらいまでは、 抹茶、主菓子(おもがし)、練きり、と、イベントでお出しする菓子もきまっていましたし、茶道の作法にのっとって出し方も決まっていました。
いわゆる茶席菓子として、和菓子をわたしたちも提供していたのです。

そして来た方は、「何だこの苦いのは!」と、まるで罰ゲームのときのように、あからさまに嫌な顔をされて帰って行かれる姿を見てきました。

ところが最近は違います。
特に、抹茶やきなこ、柚子といった素材が、和を象徴する素材としてもてはやされ、また好んで召し上がられます。
和菓子も、今では、健康的なもの、新しいものとして受け入れられています。

とはいっても、日本で出回っている菓子の味をそのまま持って行って、現地で受けるわけではありません。
例えば日本で柚子を使うときは、ほんのりした香りが好まれます。
でも、フランスでは、 ガツンと柚子が効いている味が好まれます。

 

嗜好の変化がおこったのは、3つの理由があるかと考えています。

一つ目の理由は、流通。良い素材が輸出にまわるようになったということ。

素材がよかったら、好まれるのは当然ですよね。 かなり手間暇かけられ、厳選されたいいものだけが輸出されたり、現地に持ち込まれ、提供されているわけですから、受けないわけがありません。

二つ目の理由は、食の世界的な傾向というのも影響しているのかもしれません。

和菓子の主原料となる大豆や小豆 は、そもそも豆です。
豆料理をヨーロッパでは、 生活水準が低い家庭の食べ物とか、家畜の餌といったイメージがどうしてもつきまとったそうです。

しかし、いまでは、豆は、健康志向の人にはなくてはならない素材になり、ビオのスーパーでは小豆を必ずみかけるようになりました。
昔とちがって、豆を食べることのステイタスが高いというわけです。
そんな健康素材が使われている菓子というだけで、新しい注目を浴びているのも事実です。

三つ目の理由は、味の面の変化です。いま、和菓子も、抹茶の引き立て役という組み合わせをはなれた、自由な工夫が、どんどんなされてきたというのも働いているでしょう。

元々、和菓子は、茶席で、抹茶を引き立てる役として、生まれた経緯があります。
だから味は、目立ってはいけなかったんですね。
だから、素材もシンプルだったんです。
お抹茶の味を楽しむために、和菓子には、酸味や香りは求められていません。

でも、ご家庭でコーヒーと一緒に和菓子を召し上がる時に、決まりはありません。
味の組み合わせ、香りの組み合わせも自由です。
定番もありません。
正解もありません。
だから、提供する菓子も、現地の好みにあわせた味になり、それをさらに工夫しているという、職人さんの頭の柔らかさが、功を奏しているのだとも考えられます。

お話ししてくださった、教育部 部長 小林紀夫 様

和菓子と洋菓子を分けるもの

 

Q、 和菓子と洋菓子のプロフェッショナルになるために学んでいく過程で、何が一番違うのですか?

A、 和菓子は粉を学び、洋菓子は油脂の使い方を学びます。

例えば、米粉には、もち米とうるち米があります。うるち米の粉にも、粗いものや細かいものもあります。
また、米の生産年度や、生産地によって、米粉の同じ粒度のものでも、同じレシピでは作れません。自分のイメージにあう菓子にするために、ずっと粉を探し、工夫を重ねつづけていかなければなりません。

油脂の使い方を勉強されるために、和菓子を修めたあと、洋菓子を学ぶ方も多いですね。

また逆に、洋菓子から和菓子を学ぶ方は、和のテイストを取り入れる為に粉の加工方法を学ぶという方もおられます。

 

素材の話をしましたが、表現方法も違ってきます。

和文化は、もともと大事なものを包み隠して表現します。
なので大事な物は、包んでおいて、切ってから中に見えるという仕上げの仕方をします。

例えば、栗まんじゅうを思いうかべてみて下さい。切ってはじめて大きな栗が見えますね。

一方、洋菓子は層で見えます。時間の積み重ねを見せ、色々なものが組み合わさったものが最後に総合的にちゃんと見えるように表現されます。

 

味の組み合わくみせの狙いも違います。

和菓子は、最後の核となるものの味を引き立てるような、素材同志の組み合わせの仕方をします。

洋菓子は、積み上がった、トータルなものが、どんなハーモニーを産むのかということを重視します。

 

人気の菓子職人になるために必要なもの

 

Q、 東京製菓学校では、和菓子職人になるための2年間で、どんなことを主眼において伝えておられますか?

A 、 2年間で和菓子のスペシャリストになるためのカリキュラムにしています。
ここで2年間どっぷりつかれば、和菓子職人として知識も技術もどこへ行っても恥ずかしくないと言ってもらえるまでのことを学んでもらっています。

というのも、菓子は主食ではないからです。
うちの菓子は美味しい、というのは、当たり前なんです。

お客様が菓子を購入されるのは、生きる上において、菓子が必要欠かざるものというのではなく、心の栄養をもとめて召し上がるものだからです。

 

なので正確な技術という味の担保の上に、何か価値を付け加えないと、菓子屋としては成功していきません。

そのプラスするものは何かを探すのは、職人一人一人の目指すものによって違ってきますが、とにかく美味しい菓子を当たり前として作るその技術は、どこへゆくにも最低限必要と考えています。

 

定番商品が人気のお菓子屋さんは、美味しさを工夫して作ってゆく姿勢をお持ちです。

最中や大福といったものもです。
毎日の気温の変化や、季節の変化、材料の変化に合わせて、工夫を重ねる姿勢があるからこそ、「いつも同じ」といってもらえる定番商品として支持を受けるわけです。

工夫を重ねるための、拠り所となる知識と技術を徹底してまず身に着けてもらうのが、職人を育てる学校の役割と考えています。

あとは、土台の技術が得られれば、努力次第で、工夫はできます。

 

職人に海外行きをすすめるわけ

 

Q、 今、東京製菓学校さんでは、学生さんや卒業生さんを募って海外に行かれていますね。

A、はい。海外に目を向けることを強く勧めています。
そのため、在校生、卒業生の中にも、海外を志向するものが多くおります。

国内需要が落ちている中で、まず内需拡大だろうとおっしゃる方もおられます。
それでも、生徒たちに海外に目を向けるように伝えている理由は、いろんな人の評価を受けてもらいたいからです。

美味しさには、人それぞれに幅があります。
なので、おいしさを追求し続けると到達点はありません。
何をすればより美味しくなるのか、効果的に伝わるのか、自分のお客様となる人にその工夫がはまるのか、など、いろんな人の美味しい幅を知ってもらいたいからです。

海外の人は、美味しさの幅が違ってきますので、受け止め方の表現も大きくちがうものが返ってきます。
美味しさをより追求する工夫や姿勢に何が必要かということを、フィードバックしてもらいやすいわけです。

実際には、海外に行って ビジネスをするためには、まずは売れないといけませんし、利益を出さないといけません。
なので、 いきなり海外に行って店を出せと言っているわけではありません。
職人にとって海外経験は、美味しさを追求し、工夫をし続けるヒントと刺激になると考えています。

 

和菓子業界も働く環境が変化している

 

Q、 東京製菓学校の和菓子で学ぶ留学生生徒さんには、どんな国から来られてるんですか?

A、 年を追うごとに、来られる国や地域が変わってきています。
20年前であれば韓国や台湾が多かったですね。
そして、次に、中国の波が来て、今、フランスやスペインからの留学生さんが目立ちます。

 

Q、 日本の学生さんは、菓子店を継がれる方が多いんですか?

A いえ。今は、サラリーマンのご両親の下でそだったけれど、菓子屋になりたいという方が多いですね。

また特徴的なことは、女性の生徒さんが半分という点です

 

Q 昔は、和菓子屋さんは、男性の方が主流だったんですか?

A、 そうです。
和菓子店にまず修行で入る時に、男性だったら受け入れるという職場も昔は多かったので。

でも、菓子は人なりといいます。
楽しそうな性格の人が作ると、楽しそうな菓子ができます。
おなじように、女性でないと表現できないと思われるような菓子を、女性の職人さんが作ってくれたりします。
なので、和菓子業界全体で、 女性の職人さんをどんどんと受け入れるような仕組みに、だんだんとなってきています。

例えば、「ばんじゅう」といって、餡を入れるプラスチックの大きな箱みたいなケースがあります。
そのばんじゅうに、餡をめいっぱい入れて持ち上げると15 kgを 越します。

いま、10 kg の米袋も、なかなか主婦の人からは敬遠され、袋が小さくなっていますよね。
同じように、ばんじゅうの大きさも半分になって、女性の職人さんも持ち運びしやすいばんじゅうが現場で出まわってきています。

また、材料もそうですね。
小豆が流通する大きな袋ひとつを、一体(いったい)というのですが、一体の重さは、大体25キロから30 kg です。
しかしながら、これも女性の職人さんに配慮して、半分の重さの袋で販売されるケースも増えてきました。

Q、 あ、だからなんですね。
生産者さんのところに取材に行って、出荷の時の袋を見せてもらった時、これ半分の容量の袋ですと見せてもらったことがあって、あー半分の量で購入したいっていう人もいるんだ、 という理解でしかその時はなかったんですが、 つまりは職場環境の変化をみんなで受け入れ、女性でも持ち運びしやすいようにということなんですね。

A、 そうですね。女性の職人さんが増えたということもあるでしょうし、職人の高齢化がすすんでいるというのもあるでしょうね。

 

Q、 働く時間や残業のことばかりが今よく取り上げられていますが、その業界の中だけで完結するものではなく、業界を取り巻く、様々な業種との連携があって初めて、働きやすい環境というのができるのですね。

A、 そうですね。伝統という言葉で文化を閉ざすと、時代の変化に対応できなくなって菓子屋が潰れるということにもつながりかねません。

なので技術を身につけ続ける努力をし、そして人間性を磨き続ける。
そんな、ずっと研究熱心で、そして菓子に対して誠実であり続けることで、時代に求められ、利益を得ていく商売になるということに繋がると思います。

お話しをうかがった、和菓子課の森﨑先生と、ドリアンさん

フランスに練り切りの和菓子店を開きたい

 

Q、 フランスからの留学生さんに、お話を伺わせていただけますか。

A、 ベルジュス・ドリアンを紹介します。

 

Q 、はじめまして、こんにちは。なにがきっかけで、和菓子 職人になりたいと思われたのですか?

A、 もともと、ストラスブールの大学で、日本語と日本文化を学んでいました。

東京製菓学校がストラスブールで1日お菓子教室のイベントをした時に、インターンシップでイベントに参加したのがきっかけで、和菓子に目覚めました。

 

Q大学を辞めるほど、大きな決断をされた魅力はなにだったのでしょうか。

A、 練りきりや上生菓子の形や色が、とてもきれいだったことです。
そこに、フランスの菓子にはない新しさを感じたからです。
これをフランスでも広げよう、きっとみんなに喜んでもらえると思ったからです。

 

Q、 卒業されたらフランスでお店を開かれることが目標ですか。

A 、はい。
将来的にはフランスでお店を作りたいと考えています。

でも、フランスでは経験するところが少ないので、卒業したらまず日本で経験し、そしてフランスでもお店の作り方などを経験し、そこから出店して行こうと考えています。

 

Q 、フランスで開店されるお店は、どんな和菓子屋さんにされたいですか?

A 、いま、フランスで和菓子といえば、焼き菓子の、どら焼きや,たい焼きが人気です。
まだ、練りきりは人気ではありません。
でもフランス人は見た目もとっても大事にしますので、綺麗で食べやすい和菓子は、絶対人気になると思うのです。

是非、卒業されてからもまたお会いしたいです。フランスにお店を出されたら是非行かせてくださいね。お話し聞かせていただいてありがとうございました。


東京製菓学校の小林先生、森﨑先生、そして、ドリアンさん、お話しきかせていただきありがとうございました。

 

人にあわせて菓子は進化しつづける。

ずっと同じことをくりかえしているから定番や老舗になるのではなく、進化しているから、定番とか老舗でありつづけるのだということを、教えていただきました。

また、そんな和菓子づくりの技術とマインドをもった和菓子職人さんが、今後どんどん海外でも営業ベースで活躍される日がすぐそこまできていることにも、ワクワクしました。

近いうちに、和菓子は、日本から輸出するものではなく、現地で、現地の人に愛され、現地の菓子へと進化しながらどんどん広がる世界がきていることを感じました。

取材 2019/6/21

 

取材協力

東京製菓学校 教育部 部長 小林紀夫様
教育部和菓子課 森﨑宏様
https://www.tokyoseika.ac.jp/

ABOUT THE AUTHOR

Azuki編集部編集長和田 美香
むくみやだるさで仕事も子育ても苦しかったとき、小豆玄米ごはんや、オリジナルの小豆シリアルを毎日食べることで、調子をとりもどす経験をする。もともと美容業界で働いていており、内面から輝く美容には、毎日の食も大切と実感していたことから、小豆のよさを世界の女性に伝える大使としてAzuki.tokyoの活動を始める。
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