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東大 山本教授に聞く 和菓子の歴史 (前編)

梅の見頃を迎えた2月某日、東京大学 史料編纂所の山本博文教授(以下、山本教授)を取材した様子を2回に渡ってお伝えします。

きっかけは和菓子への素朴な疑問から

azukiに参加するにあたって、私が大好きな和菓子屋を整理していると、たねや・叶 匠壽庵と滋賀の店が2軒もあることが気にかかりました。

なぜ京都ではなく滋賀なのか。

滋賀県在住の知人に疑問をぶつけてみると、「京都に近く、大きな宿場町がたくさんあるからでは。」とのこと。ここから、参勤交代や五街道整備と和菓子の関係に興味を持ちました。

「江戸時代から続く 老舗の和菓子屋」(双葉社) 監修の山本教授の存在を知り、「どのような過程を経て和菓子が形成されたのか」を聞くには山本教授をおいて他にはいないと思い立ち、取材に至りました。

「江戸時代から続く老舗の和菓子屋」を監修された山本教授

東京大学 史料編纂所は、古代から明治維新期に至る前近代史の日本史史料に関する研究所であり、その歴史は江戸時代にまで遡ります。山本教授は、近世政治史の研究・近世武士の研究がご専門です。

NHK「知恵泉」「100分de名著」などTV出演多数、「歴史をつかむ技法」(新潮新書2013年)、「現代語訳 武士道」(ちくま新書2010年)といった著書も多数手がけていらっしゃいます。
歴史学者から見た和菓子ついて、お話を伺ってきました。

和菓子は、室町時代に原型が完成し、江戸時代に発展していった

Azuki編集部「まず、和菓子の歴史について教えてください。」

山本教授「平安時代、水菓子(果物)を食するようになり、菓子やデザートといった概念が生まれます。鎌倉時代になると、中国から僧侶とともに料理が伝えられます。その中に、もち・饅頭・団子といったものがありました。室町時代、京都では、将軍が守護大名を訪問しもてなされる「式正御成(しきしょうおなり)」の中で、儀式としての料理が集大成を迎えます。また、室町時代中後期以降に茶の湯が発展してきますが、この過程で菓子が単なる「添え物」から「菓子」へと独自の進化を辿っていったと考えられます。

戦国時代になって戦乱の世で菓子は一旦廃れますが、南蛮(ヨーロッパ)から砂糖をふんだんに使った菓子が入ってきます。カステラ、こんぺいとうが有名ですね。豊臣時代になり、社会が安定すると、京都で菓子もさらに発達していきました。

江戸時代は統一政権によって社会が安定します。将軍が大名を訪問するようになると、「式正御成」より簡素な「茶屋御成(ちゃやおなり)」という儀式の中で茶に伴う菓子が盛んになります。城下町で地方色豊かな菓子が生まれ、伊勢神宮で赤福を食べるといった旅人相手の菓子も生まれます。菓子の原型は室町時代にはできあがっていましたが、江戸時代から砂糖が使われるようになり、また一段違った菓子になったといえるでしょう。」

和菓子とファッションの共通点

Azuki編集部「参勤交代や五街道整備といった政策・制度が菓子にどのような影響を与えたのでしょうか。最中や饅頭など日本全国に似たような菓子が多いのは、江戸で菓子を食べた大名が真似しあい、地元に持ち帰ってつくるようになったからでしょうか。」

山本教授「参勤交代で諸国の大名が江戸にやってくると、大名同士の交際のために料理や菓子が饗されるようになります。大名は、江戸で食べて気に入ったものを、自分の領地に戻って職人らに命じてつくらせます。その結果、地方色豊かなお菓子が生まれるわけです。似たような菓子がたくさんあるのは、元をたどれば似たような菓子を食べていたからでしょう。似てはいるがそれぞれに特色ある菓子が誕生していきます。

ファッションと同じですよね。パリコレで見ていいと思ったものを自分の国に帰ってつくる。同じように、江戸・京都で見ていいと思ったものを、大名も自分の領地に帰ってつくらせていたのです。」

「下らぬ物」よりは「下る物」がよい

山本教授「京都の菓子(上菓子)は、雅で繊細なデザイン、高価な砂糖を使用した上等な菓子です。江戸では、きんつばや大福など片手でも食べられる実質的な菓子が生まれました。それらを諸国の大名は真似するわけですが、一番の手本はやはり京都の菓子です。「下らぬ物」より「下る物」の方がいいわけですね。

「下る物」とは、京都から江戸へ、そして江戸から日本各地へと広める価値があるものを指す言葉となりました。」

 

後編は、こちらへ

 

※「和菓子」は明治以降に新しく入ってきた「洋菓子」に対する言葉です。歴史の中での和菓子は「菓子」と表記を統一しています。

 

ABOUT THE AUTHOR

MiKi
東京子連れ食べ歩きライター。
甘いもの大好き。以前は専ら洋菓子だったが、授乳トラブル時に助産師さんから和菓子を勧められてそのおいしさを再認識し、和菓子も積極的に食べ歩くように。並んでもで何度もリピートしたい味、手土産で喜ばれる味、子供と行きやすくておいしいお店、東京ならではの情報をお伝えしていきます。
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